UA-125421985-1

!!!5秒以上1分未満な物語!!!

ブログ小説第2弾です!今回は主人公がいますwずっと描きたかったテーマだったので…上手く表現できれば…と思います!

【KADODE】37話 太陽が頭上に昇り…

第37話

 

太陽が頭上に昇り、ポカポカと眠気を誘う陽気だ。

現にリーサとカドデは瞼がトロリと下がり、虚ろな様子で歩いている。

 

そろそろ軽い昼食にしようかと、リージは寛ぐのに良さそうな場所を探している。

 

そんな時…

かなり数も少なくなり始めていた彼方の雑木林から大きな音が聞こえてきた。

 

木々を激しく揺らし、葉を舞わせて飛び立つ何かが見えた。

 

f:id:gouzo:20190319000904j:image

 

「何あれ?…鳥?」

 

「…いや…鳥にしては大きい!

…あれは…ワイバーンかもしれない!」

 

リージが本を片手に確認している横で

リーサは歓喜の声を上げる。

 

ワイバーン⁈ 初めて見た〜!

小型の竜の亜種だって聞いたけど…けっこう大きいね!

くぅぅ…腕が鳴る〜♫」

 

ワイバーンに向かって走り出そうとするリーサに片手に持ってた本の一撃を加えるリージ。

 

「痛ぁぁ」

 

「リーサ!自分から危険に飛び込んでどうするんだ⁈ 

まだ距離はある!こっちへ向かって来るようなら、応戦だ。

それ以外なら…」

 

リージのお説教が終わらない間に

リーサが声を上げる。

 

「待って!ワイバーンの近くに人がいるよ!」

 

ワイバーンと呼ぶその怪物は激しく翼を動かし、地上の何かに威嚇していた。

 

 

(38話へ続く)

【KADODE】36話 失敗に頭を抱えるリーサと…

第36話

 

失敗に頭を抱えるリーサとイビキをかいているカドデをよそに、起床してすぐにリージは朝食の準備に取り掛かっていた。

 

「ほら!リーサ、顔拭いて歯磨きもするんだぞ!」

 

焚き火に昨日の残りのスープを温めなおし、パンに熱したベーコンを乗せる。

 

食事にも少しは慣れてきたルピナスだ。

味覚とは…心を豊かにするものなのだと感じた。

 

木の葉は朝日を浴びて輝き、空は日が昇るほど青く透き通っていく。

この世界は美しかった。

隣でまだ寝ぼけ眼でいる、この…カドデが創った世界は…

 

「今日、1日歩いて野宿したら…明日午前中には大都市アクトスへ到着しそうですね!」

 

「おばあちゃん情報によれば、この先は森を抜けて平坦な土地になるっていうし…

ん〜!順調過ぎる〜」

 

「リージ!」

 

「はぁい…気は抜きません〜」

 

「今日の野宿でも失敗したら、伝書鳩で父さんに報せるからな!」

 

「リージ厳しいよ〜」

 

相変わらず賑やかな2人だ。

 

f:id:gouzo:20190304201046j:image

 

荷物をまとめ、歩きだす。

先日いた村の、森の中とは景色が変わりそうだ。

異変を起こしているかもしれない世界には思え無いほど、穏やかな大地が続く。

 

 

(37話へ続く)

【KADODE】35話 夜明けを報せる鳥のさえずりと…

第35話

 

夜明けを報せる鳥のさえずりと

ひんやりとした少し湿り気のある朝靄の風がルピナスの頬を触れていく。

 

f:id:gouzo:20190304201018j:image

 

ルピナスは結局睡眠を取ってはいなかった。

眠り方を知らない…というのもあるが、

もし…睡眠の中に引き込まれ、目を開けたら現実の世界に戻っていた…

などという事をほんの少しだけ恐れていたのだ。

今のルピナスは、この世界にかなりの興味を持っていたのだ。

初めは単なる調査と確認だけのために降りた筈が…

無論、調査優先だが…偽りでも"人"として触れるこの世界に興味津々だった。

 

言葉を変えれば、この世界が楽しかった。

 

とはいえ、まだ今のルピナスには楽しい…などという言葉は自覚してないようだが…

 

 

寝袋でぬくぬくと熟睡していた双子の姉弟も朝日を顔に浴びて起き出してきた。

 

「うわぁぁ!!朝になってる!

失敗した〜!明け方の見張り、私の番だった」

 

リーサが頭を抱える。

 

「リーサ…やってしまったな?今日は奇跡的に無事だったようだが…致命的な失敗だぞ?」

 

「うぅ…ごめん…寒くてつい、寝袋に入っちゃったら…うぅ…」

 

「大丈夫だ。自分が辺りの様子を伺っていた。

外敵は現れなかったようだ。」

 

ルピナスさん…起きててくれたの⁈

ほ、本当にごめんなさい〜!」

 

ますます項垂れるリーサと、この騒ぎでも未だ起きずルピナスの横でイビキをかいているカドデに…

ルピナスは少し苦笑いした。

 

 

(36話へ続く)

 

 

【KADODE】34話 リージが作ってくれた携帯食を…

第34話

 

リージが作ってくれた携帯食を、カドデは凝視している。

口からは涎も出ている。

主プログラムにあるまじき姿だ…

 

「食べたいのか…?」

 

ルピナスは干し肉をカドデに差し出してみる。

カドデは目を輝かせて、コクコク頷き干し肉に齧り付く。

 

…と、いってもやはり感触は無い。

 

この夢想世界では、いはば幽霊状態のカドデは物理的に干渉することが出来ない…

 

それでも皆と食事を食べているフリをしている。

焚き火を皆で囲み、リーサ達の会話に相槌を打つカドデは…

とても楽しそうだ。

 

f:id:gouzo:20190304200942j:image

 

もし…リーサ達がカドデを見ることが出来たら…きっとカドデはすぐに彼らと打ち解けられるのだろうな…と、ある筈も無い仮定を考えていたルピナスに…

 

ルピナスさん、夜間の見張りは3人交代で大丈夫ですか?」

 

リージがふと声をかけてくる。

 

…そうか、人間は睡眠を取らないとならなかったな…

 

「…いや、2人は寝てて構わない。

自分が夜間の見張りをする」

 

「え?ルピナスさん!

それじゃ、ルピナスさんが寝れないじゃない⁈」

 

「構わない」

 

機械兵になってから…睡眠など取った事も無いし、今でも睡魔は訪れないからだが…

 

ルピナスの素性など知らない彼らは全力で反対する。

 

「無理しないで下さい!ルピナスさんが倒れたら大変です!」

 

しっかり者リージによって強引に3交代用の予定が組まれた。

 

 

(35話へ続く)

【KADODE】33話 村人達から送り出され…

第33話

 

村人達から送り出され、最初の野宿を迎える。

 

「ふわぁ…村出た時にゎ凄く緊張したけど…

無事に夜まで歩けたね♫

なんか安心した!」

 

「こら、リーサ。

気を抜いては駄目だぞ!むしろ夜のが危険だそ」

 

しっかり者の弟リージは警戒を怠らない。

 

「夜は盗賊の類も出没するかもしれないからな。」

 

ルピナスさん…はぁい!」

 

ルピナスの忠告にはしおらしく従うリーサだった。

 

「それにしても…私、野宿で食べる食事って初めてなの!楽しみ〜♫

…リージったら、いつの間にそんなテキパキ料理できるようになったの?」

 

料理番はリージが率先してやっている。

 

f:id:gouzo:20190304200853j:image

 

実のところルピナスは料理をやった事が無いのだ。

むしろ普通の人間がするような野営を体験した事も無い。

知識として最低限は知っていても、手際良く…は無理だった。

 

そして皆と食べ物を食べるということも…

 

「リーサが苦手な裁縫を勉強してた時に僕は野営術を勉強してたんだよ。

凝った料理は出来ないけど…

携帯食を作ることくらいなら出来る」

 

「うわぁ、うわぁ♫

これが携帯食かぁ…パンに干し肉の切り身…チーズにスープ?」

 

「母さんが湯に溶かすだけで出来る携帯食スープを作っておいてくれたんだ。

そんな日保ちはしないけど、2日くらいなら持ち歩けるって…」

 

「美味しそう♫

ルピナスさんも食べましょう♫」

 

「… … 」

 

果たして自分は食べ物を食べられるのだろうか?

夢想世界で幻の体を手に入れても、尚

食欲というものは感じないが…

 

半ば強引に手渡されたスープ入りの椀を見つめる。

 

先日も村で振舞われた茶を飲んだのだ。

一応不可能ではないだろう。

 

立ち昇る湯気と熱さに気をつけながら

椀に口を付ける。

茶の時とは違う味覚が過る。

塩気と香辛料、後からやってくるコク…がルピナスの脳に新鮮な刺激をもたらす。

 

「美味いな…」

 

本当のところ、味覚の優劣は未だよく分からないが…

純粋に口から出た言葉だった。

 

 

(34話へ続く)

 

【KADODE】32話 「う、うわぁ♫」

第32話

 

「う、うわぁ♫ルピナスさんが声かけててくれた!」

 

“武器はしまえ、周囲に気を付けろ…”と、

指示しただけだったが…

思ってもみない反応だった。

 

ルピナスさん、ホント無口だから…

私達が旅…一緒に付いて来ちゃった事…

良く思ってないかなぁと思ってたの…」

 

「…いや。互いに交換条件だしな…」

 

「リーサ!あんまり喋り過ぎると本当に呆れられるぞ?」

 

「あ、うん、そうよね…

…って…あああ⁈

そぅ!さっきルピナスさん…私の事名前で…

うわぁうわぁ♫」

 

弟に諌められたばかりなのに、更に騒がしくなる。

ピョンピョン跳ねて…カドデのようだ。

 

f:id:gouzo:20190304200812j:image

 

「名前、違っていたか?」

 

「ううん!私はリーサよ♫

名前呼ばれるなんて思ってもみなかったから!

…こう…旅の仲間になれたって感じ!!」

 

「… … 」

 

…いや…ただの便宜上…

 

思いかけた時、横からすかさず

 

「旅の仲間!!いっぱい素敵だね〜♫」

 

小さいのまで周りでチョコチョコ飛び跳ね出した。

言うまでもなくカドデだ。

 

姉弟には聞こえないだろうが…物凄くうるさい。

 

「リーサ!騒いでると怪物が寄って来てしまうぞ!」

 

弟リージの喝で何とか収拾する。

 

むしろある意味…弟リージが同行してくれた事に心強さを感じるルピナスだった。

 

 

(33話へ続く)

【KADODE】31話 村を出立して…

第31話

 

村を出立して1〜2時間は経っただろうか。

 

午前中ということもあり、未だ日差しは爽やかに降り注ぎ、そよ風も涼やかだ。

 

「わぁ〜♫綺麗な色の小鳥さんだよ!青と黄色と赤も混じってる〜♫」

 

カドデはこんなノンビリと世界を歩くことは無かったのだと、しきりに辺りの景色を眺めて楽しんでいる。

双子の姉弟の…弟リージは黙々と歩き、姉リーサは何となしに暇そうな雰囲気だ。

 

村を出て、怪物の襲撃を警戒して歩きながらも陣を組み慎重に歩いて来たが…

 

村は既に遥か彼方に、

目を眇めても見えない位置まで来たが

怪物、盗賊どころか凶暴な獣すら見かけず今に至る。

 

「平和に旅をするってのが一番だけど…

ホント何も無いよね!

さっきから小鳥のさえずりしか聞こえない〜」

 

「リーサ…父さんが聞いたらまた叱られるぞ?」

 

「だって…村出て、凄い気合い入れて…

いつ怪物に襲われても対処しようって武器持ちながら集中してたんだよ〜

もう2時間は経つよ…集中力切れた!」

 

「気を抜いた時こそ危ないんだぞ、自警団で習っただろ?」

 

「…うぅ…ハィ…」

 

f:id:gouzo:20190304200737j:image

 

肩を窄めるリーサ。

姉弟の力関係が伺える。

戦争時…こんな風に人間達の他愛のない会話など聞く機会が無かった。

未だルピナスは感情らしい感情も無いが…

 

この姉弟の掛け合いは耳障りでは無かった。

 

「リーサ、武器はしまっておいていい。

…ただ、周囲の気配だけ気を付けていろ。」

 

ルピナスは初めてかもしれない…人にアドバイス(らしき事)を言ってみた。

 

 

(32話へ続く)