【KADODE】92話 僕の故郷の村は…
第92話
僕の故郷の村はなだらかな小高い丘の上にあった。
明るい森林に囲まれていて、村人は猟をしたり、薪を作って生計を立てていた。
さほど豊かでは無かったけれど…
村の外れの小ぶりな畑とか、果樹園とか…
自給自足は十分にできていて、
僕らは皆、充実していた。
けれど、今は…
身体中燻されるのでは無いかと思う程の、高温の黒煙…
目を僅かに開けて見れば…
明るい緑にさざ波の様に覆われていた、静かな村は…
激しい炎と悪魔の様に蠢く黒煙に埋め尽くされていた。
「…全滅…だ…
村中…何も…何も残って無い…」
抑え無ければならないのに…
つい、震える唇が言葉を紡いでしまった。
必死に踏ん張っていた気持ちが決壊すれば、
涙が止めどなく溢れてくる。
手で口を抑え、必死に嗚咽を堪えるのが精一杯だった。
(93話へ続く)